雨月物語

 クレーマークレーマーで泣けてしまった。学生の時には最後まで見る気になれなかったのに・・・。
 映画に凝り始めたのも大学に入ってからと遅く、ハリウッド映画は一切見ないでミニシアターや名画座に通いつめたりしていたので、僕の映画趣味は相当屈折している。任侠物とマフィア物しか観ないときもあったし・・・。今更遅いような気もするが、クレーマークレーマーを観終えて、やはり語り継がれる名画は見ておきたいし、かつて観た映画であっても感動を新たにしたいという気持ちが湧き上がってきた。
 そこで、最初に見たいと思ったのが、溝口健二雨月物語である。
 戦国時代の混乱の中で湧いてきた金儲けや出世の機会に目が眩む男の愚かさを描いた寓話で、受け取り方は人それぞれになるのだろうが、僕にとっては特別な映画である。ローアングルを主としながらも感情の機微で目線を変えていく肌理の細かさやパーンの先にある正確な構図。モノクロ画像の限界を超えるために霞を使って奥深く微妙な幽玄さを作り出している。そして、京マチコの身のこなしや目線の送りは気品に溢れ、日本固有の形式美を感じる。美しい・・・。大げさではなく、日本人であることを誇りに思えるような、そんな映画である。