皆既日食

 出張に同行している豪州人が、自転車レースは豪州ではマイナーだといいつつ、エバンスが完全に脱落してしまったといって悔しがっている。そういえば先日来日したノルウェー人はトルはいいスプリンターだろうなんて胸を張っていたし、こんな風にフツーのサラリーマンと自転車のレースネタで自然に時間を潰せるのだと思うと、日本での自転車の本格的普及はまだまだこれからなのかもしれない。
 22日は皆既日食体験の好ポイントにいたのだが、朝からあいにくの曇り空でとても太陽を拝めそうもない。ホテルでも前日には紙で出来た日食観測用のサングラスを配ったりしていたのだが、チェックアウト時には、こんなサングラスを渡しても何の役にも立ちませんね、などといって完全な諦めムードになっている。
 朝から車で内陸に向かって移動していたのだが、9時過ぎになって少し雲が薄くなってきた。でも変に期待すると失望が大きくなるから平静を保つようにしようと思っていたら、9時20分過ぎ厚い雲が途切れてぼんやりと日が差してきた。もしかしたら薄い雲の奥に太陽が見えるかもしれないと思って明るくなっている部分を凝視していたら、本当に、三日月になった太陽が顔をのぞかせたのである。
 見えた見えたといって大騒ぎしたら、豪州人が車を止めろと言い出して高速の路肩でストップ。車の外に出て日食見物をはじめる。それはもう大騒ぎである。
 この地域で皆既日食になるのは9時35分前後といわれていたが、9時25分前後で再び太陽が隠れてしまったので車に戻る。完全な皆既日食の瞬間は見れそうもないけどよかったねなんていっていたら、これは本当にもう奇跡としか言い表せないが、9時30分をすぎたあたりから雲が薄くなってきて、またもや太陽が姿を現したのである。
 僕たちは再び車を路肩に止めてポカンと口をあけ空を見上げる。雲に隠れては姿を現すたびに太陽は確実に細くなり、ついには月の影に隠れてしまう。OH!AMAZING!なんて声を上げていたら、あたりが暗くなってきてあっという間に真っ暗に。外にいると後ろから衝突されそうで怖いので車に乗りこみ皆で握手。豪州人は上手に写真を撮っていて、子供たちに自慢できるなどといって喜んでいる。(ぼくも後で写真を送ってもらう事にした)今回の皆既日食を体験した豪州人なんて数えるくらいしかいないだろうというと彼もまんざらじゃなさそうで、夜飯では冷えたビールとステーキをご馳走してくれた。
 今回の出張はあまり乗り気ではなかったが、期間も短くなって週末に戻れることになったし、なんだかツキがまわってきたような気がする。