バード=チャーリーパーカー=

 僕の学生時代にリバイバル上映された真夏の夜のジャズはスチールショットを何枚も何枚も重ねたような美しい映像が強く印象に残る映画だった。カメラを固定させての映像が多かったためか、写真が揺れ動き輝いているような不思議な感覚にとらわれたことを今でも鮮明に思い出す。この映画は57年?のニューポートジャズフェスを追いかけた映画で原題は"Jazz On A Summer's Day"、主催者のジャズに対する許容性に驚いたりもした。ジャンルに関するこだわりは希薄で素晴らしいもの新しいものを全て詰め込んだような感じ。可愛らしい仕草のモンクがソロを演じたと思えばジェリーマリガンやシェーリーマンが出てきたり、チャックベリーがロックンロールを決めたかと思うと、トドメはマヘリア・ジャクソンという日本のジャズフェスでは考えられないような大らかで幅の広い人選である。観客を見渡せば目をつぶって聞き入る客もいれば楽しそうに踊りだす人たちもいる。僕はそんなところからも自由で豊かなアメリカ合衆国を感じて憧れたりしたものだ。
 このDVDは手元に置いておきたくてレコードショップに行くたびにチェックしたいるのだが、この数年見かけたことが無い。おかしいと思いアマゾン.comで確認してみたら、見つからないのは当たり前でいつの間にか廃盤になっていたのである。この作品は5千円近くしたのでそのうち廉価版が発売になるだろうと思って待っていたのが間違いだった。アマゾン.comで唯一出ていた中古は1万2千円と高く手が出ない。
 愚かな検索をしているうちに、どうしてもジャズ系の映画が観たくなったのでクリント・イーストウッドのバードを見ることにした。ヨードを飲んで自殺未遂を図った53年頃から死ぬまでの破滅的な晩年を描いた作品で、ライブやレコーディング風景が最高だ。僕はバードというと名著”チャーリーパーカーの伝説”をベースに植草甚一さんが生き生きと描いたビバップ創成期ミントンズでジャムセッションを繰り返していた頃の破天荒で激情的なエネルギーを爆発させていた姿をイメージしてしまうので、晩年のバードを描いた物語そのものには違和感があるのだが、演奏シーンになるたびに監督クリント・イーストウッドの強烈なジャズ愛を感じて熱くなってしまうのである。
 チャーリー・パーカーの革新性や素晴らしさは様々なところで語られているが、僕が彼のアルバムをターンテーブルに乗せることは殆んど無い。たまに聞くとしてもナウズ・ザ・タイムやマッセイ・ホールくらいで、ビバップの雰囲気を楽しみたいときにはソニースティッドのプレイズ・バードを聞いたりしているのだが、このあたりで一度バードを追いかけてみようかな。かえって歳を取ったことが幸いして、何か特別なものを感じることが出来るかもしれない。