映画・壬生義士伝

 邦画は殆んど見ないので、おくりびとにも全く興味を持っていなかった。滝田洋二郎という名前すら知らなかったのだが、ちょっと意識してみると、なかなか面白そうな監督だ。
 まず、毎朝の満員電車の派手なつり革広告が目に付く釣りキチ三平の監督であること。三平の豊かな表情や躍動感あるいは水面に姿を現した釣魚の重量感や跳躍力を映画にすることが出来るのだろうか?そして、驚いたのは、正月休みに読んで感動した壬生義士伝を映画化していたことである。
 蒲田行進曲を借りるつもりでレンタルショップに行ったら、ショップの在庫リストには載っているのに、何処を探しても見つからなかったので、壬生義士伝を借りることにした。読みながら割と具体的な映像イメージを作り上げていたことので、アカデミー賞受賞監督がどんな切り口で映像化しているのか楽しみである。
 素直な感性を持った監督なのだろうか。
 奇をてらったようなシーンはほとんど無くて(首が落ちるシーンと、演出的にも構図的にも正攻法。映画の教科書を観ているようだ。ハイアングルで捕らえた新撰組の屋外道場、大野に脱藩の意志を告げる場面や、吉村が霞の先にいる朝軍に向かって走り出すシーンなど印象に残る美しいシーンもいくつかあったが、それよりも、俳優の魅力を引き出し輝かす能力が優れているのであろう。中井貴一佐藤浩一の演技は素晴らしく引き込まれるものがあった。
 さて、戦で傷だらけになった吉村が南部藩蔵屋敷にたどりついたところで一度DVDをとめ、残りのシーンは子ども達が寝静まってから改めて観る事にする。まさか、映画を観てボロボロなく父親の姿を子どもに見せるわけには行かない。
 この小説を限られた時間で纏め上げるのは難しい。僕であれば親の義と息子の忠の心をぶつけながら家族愛に迫って行きたいところだが、滝田監督の演出は何処までもオーソドックスで、(大野が死んだ吉村に無理やり握り飯を食わせるシーンなどは不要だと思うが)作品として上手くきれいに纏め上げている。
 時に理解不能な文化ギャップがベースにあって、それを超えて共感したり血湧き肉踊ったりするところが好きで僕は洋画を観ているのだが(もちろん異国への憧憬もあるが)、この映画を観ていて、感情にダイレクトに訴えかけてくる邦画も悪くないな、なんてことを考える。それともう一つ。ここ数年は娯楽大作一辺倒だったのだが、最近になって心に響く映画を観たいと思うようになっている。これってナゼなのだろうか。