蒲田行進曲

 演劇界の奇才つかこうへいが、映画界を強姦すべくその代表作を看板役者とともに送り込んできた。自ら監督の椅子に座るような愚は冒さず、深作さんに監督を任すところも鋭い選択であった。ジェットコースターのような昇降激しくスピード感溢れる展開と、”芝居がかった”大げさな演技・演出に松坂慶子の絡みというオマケまで付いて、昭和のある時代に公開された映画としては衝撃的だった。
 公開されてから30年近く経って、幾つかのシーンがあいまいになってきているので、記憶の綻びを縫い直そうとツタヤに行ってDVDを借りてきた。
 風間杜夫原田大二郎が若くてツルツルしている。松坂慶子のスタイルも抜群だ。それだけ時間が過ぎたわけで、もちろん、僕もそれだけ歳を取ったのだということを実感させられるのが、少し辛い。
 見直していて、まず感じるのは深作監督の大部屋役者に対する感謝の心である。映画を支えるのは大部屋役者なのだ気概を示し納得させるだけの、説得力のある演技を平田満が決めている。松坂慶子の大根ぶりが堪らないがこれも狙いの演出なのか?
 後半30分の階段落ちに至るまでのシーンは分かっていながら泣いてしまう。死と直面する安の心の揺れを壮絶に演じる平田満が素晴らしく、また、それを演出した深作監督の強い力を感じる。映画の一瞬ごとに命を賭けているのだという気合や情熱が伝わってくるのだ。