スラムドッグ$ミリオネア

 日本における洋画の封切りは異様に遅く、まだ公開されていない映画が飛行機で上映されていたり海外では既にDVDが発売されていたりするので本当に腹が立つ。遅れて公開される映画も大物俳優主演作が殆んど。買い付けをやっている会社が、自分の目に自信が無くてリスクを張れないから、こんなザマになるのだろうけど・・・、アカデミー賞受賞候補作品は少なくとも授賞式前に見ておきたい。
 これはテルゾウ心の叫びである。
 スラムドッグ$ミリオネアを観て頭に来た。この手の映画は受賞確定前に封切りしても一定の客層から評価され口コミでヒットするに決まっている!(大ヒットではないかもしれないが)そんな映画ファンにアカデミー授賞式後、私の見る目は鈍っていなかった・・・と密かな満足感に浸らせてあげるのも配給会社の大切な仕事じゃないか。
 インドという国と未来のそれを支える子ども達のポジティブなエネルギーが伝わってくるパワフルな映画である。冒頭、スラム暮らしの貧しさなんか諸共せず、無邪気さと本能的な悪戯心を持って走り回る子供たちに引き付けられる。MIAの名曲PAPER PLANEが映像にパワーとリズム、”勢い”を与える。この映画は全編に渡り音楽が素晴らしい。
 未成年の人身売買など途上国の抱える闇の部分をあらわにしながら話は進んでいく。クイズ番組の司会者役でピリッと空気を引き締めるヒゲの俳優さんはこの映画のギャラを出生登録プロジェクトに寄付したそうだ。インドでは生まれてくる子どもの何と1/3が出生登録されていないのだという、このことは事実として深く心に留めておきたい。
 しかし、それでもこの映画の駆動力はピュアな生命力だと言い切ってしまおう。純粋な憧れ、純真な愛・・・迷いの無い行動が潔く僕の心に映る。日本という国が完全に失ってしまった生の活力が間違いなくここにある。