ブルース・スプリングスティーン

 ブルース・スプリングスティーンの初来日は85年だから20年以上昔の話になる。海外で彼のコンサートを観た音楽評論家達が一様にライブの凄さを熱く語るので、プロレスで言うところの伝説の”まだみぬ強豪”的な存在になっていた。加えてBorn In The USAが日本でも爆発的にヒットしたことからチケット入手は困難を極めた。
 僕は首尾よく代々木第一体育館のアリーナを入手し、当時親しかった女の子と観にいく予定にしていたのだが、すっぽかされるというとんでもない想い出が残っている。(当時は携帯がなかったので、お互いに外出していると連絡の取り様がなくて、様々な喜悲劇が生まれたものだ)
 僕はコンサートでその怒りを爆発、拳を振り上げて彼の名曲を激唱していたのだが、名曲BadlandsやBorn To Runでは喚声が轟音のように会場内に響きわたるような異様ですさまじい盛り上りで、僕も殆んど卒倒しそうな興奮状態に陥っていたものである。(ここでBorn In The USAやDencing In The Darkを上げないところが僕のいじらしいところである・・・)
 そんな、僕の大切な思い出の一部を彩るBスプリングスティーンも今年で還暦を迎えるということで、今更彼の新譜なんて・・・なんて思いながらも、今年発売されたアルバムで最も頻繁に聞いているのは彼の新譜である。The Riverまでの彼の音楽には、腹の底から湧き出るようなパワーと、泥水に浮かび濁り澱んだ廃油の匂いが漂ってきそうな雰囲気とが渾然と混じりあって、どこか重くて暗いものを感じさせていたが、老いてなお盛んなブルースは明るく、しかし力強く”夢を掴むために働こうぜ!”と明るく我々を鼓舞してくる。そして、それがまた良いのである。
 僕は感性が止まってしまうのが怖くて新しい刺激を求めているのだが、体に沁みこんだ音楽を聴き返すことも悪くない、という気持ちもあり、時折そんな想い出の詰まった音楽にドップリと浸ってしまうのである。
 B・スプリングスティーンの02年バルセロナでのライブDVDを買って観ているのだが、Born To Runの凄まじさに鳥肌を立ててしまった。彼が煽動したら革命がおきるのではないか・・・。彼の音楽には信じがたいような暴力的なエネルギーが宿っているのである。DVDを観ながら何度も立ち上がり、時に一緒に口ずさんだりしていたのだが、ブルースがハーモニカであのThunder Roadを吹き始めると、もはや我慢できず拳を振り上げて声もデカク歌い始めてしまった。家族のシロい目など気にしている場合ではないのである。