Wrecking Ball

 グラミー授賞式の、この1年に亡くなったスターの追悼セレモニーで、クラレンス・クレモンズの姿が画面に映し出された時には、この事実をにわかには信じられず、何かの冗談だろう?と思い流してしまったのだが、あのゴッツくて豪快なサックス吹きは本当にもういないのだな。

でも、ブルースはこう書いている。

Clarence doesn't leave The E Street Band when he dies.
He leaves when we die.

 ギターとサックスを持った右手を振り上げているブルースとクラレンスの後ろ姿を移したフォトの、クラレンスのデッカイ背中を見ながら、どんな凄い奴でも死んでしまうんだな・・・でも、僕らはいつでも聞きたくなったら彼の音に触れることが出来るんだ。


 夢を希望を持って生きていこうぜとリスナーの背中を押すような強いメッセージを発し続けるブルースも、すでに60歳を超えているのだが、彼の新譜「Wrecking Ball」は、生身のブルースが体ごとぶつかってきた渾身の一作で、聴くたびに胸が熱くなってくる。


 昨日、間もなく定年退職を迎える先輩の送別会があったのだが、その方は退職したあと京都の大学に入学して、改めて勉強をするのだそうだ。定年を迎えるような歳になって強く思うのは、生きるということは死について考えることなのだと。死があるから一生懸命生きるのだと・・・。僕もいくつになっても真摯に人生に向かい合っていきたい。


 オープニングを飾るWe take care of our ownっていうタイトルについて、僕は「自分達の力で生きていこうぜ」っていう感じに受け止めていたのだが、訳者である三浦久が面白いことを書いていた。僕のような受け止め方をさせたいのであればourselvesでいいはず。our own とある限り、そのあとにfamilyとかfriendsとかcountryといった言葉が来るはずなので、「俺たちは自分たちで支えあう」と訳したのだ、と。素晴らしい解釈だと思う。もっと深くしっかりと英語を学びたいなんて事も思った。