モンドヴィーノ

 こんな夢を見た。


 ルーカスフィルムをディズニーに売却したジョージ・ルーカスは手にした資産の大部分を寄付したが、手元に残したお金で日本酒の製造に取り掛かった。敬愛する監督の名を戴き「KUROSAWA」という銘柄名にする予定なので、全てにおいて完璧な作品(お酒)を造らねばらならない。
 まずは、山田錦製造に適した土地をカリフォルニア州に探しだし、酒蔵は軟水系・硬水系の水脈を持つ地にそれぞれ構える。酵母の研究・研鑽に熱心な研究者を山形・静岡・佐賀から招き、パーカー2世との誉も高いワイン評論家モンブランのアドバイスを受けながら、味わいのバランスを磨いていく。


 そして、20xx年、帝国ホテルで開かれた日本酒利き酒コンクールに参加したルーカス酒造の「KUROSAWA」は激戦区の純米吟醸部門で最高点をたたき出しただけでなく、頂点ともいえる純米大吟醸部門でも最高位に輝いたのである。世界中に散らばる日本料理屋、特に最大の需要国である米国では、品質が安定して安価で入手できるルーカス酒造のお酒が主流になり、日本国産「日本酒」はグローバル化に取り残された「時代遅れの味」だと酷評されるに至る。もちろん、その急先鋒に立つのはモンブランである。


 世界の需要を取り込んだ、ルーカス酒造は究極の作品を作るべく、兵庫県特A地区の中でも特に優れた山田錦が栽培される稲作地帯の買収を計ると、日本国内需要の低迷から窮地に陥っていた同地区村長が取りまとめに動く。日本酒グローバリズムの波に乗るべきか、地酒作りの誇りを守るべきかを巡り激しい議論が重ねられ、ついには中央の政治家が動く事態となる。


 最終的に兵庫県の土地の入手に失敗したルーカス酒造は、風に弱く産地を選ぶ山田錦の栽培に成功した佐賀県に狙いを定めるが、これらの土地買収に関する内紛を突かれる形で、ルーカス酒造はバドワイザーに買収されることとなる。結局、ルーカス酒造も、資本の論理に飲み込まれていたのである。


 なんてことが、フランス・ワインの世界で実際に起きている。それが、カリフォルニアワインがボルドーの名だたるワインを打ち破った1976年のパリ・テイスティング事件であり、1997年のモンダヴィ事件である。グローバリズムか地味(テロアール)かという議論は、簡単に善悪の結論をだせるようなものではない。考えさせられることが多い作品である。