死刑台のエレベーター

 10代のころから必見映画だと思っていたんだけど、僕が学生時代に古い仏名画を上映していたアテネフランセでも、この映画は掛からなかったような(シティロードで見落としてただけ?)その後ビデオ時代になっても、なぜか”借りて”見る気にならず今日を迎えてしまった。ルイ・マルの演出を若いなと感じるのは、そうこうしている間に、僕が歳をとってしまったのだから仕方がない。


 ヌーベルバーグとモダンジャズ、何て刺激的な組み合わせなんだろう。
 この映画は、古典的かつシンプルなサスペンスドラマで、今となってはとても幼稚なストーリーに感じるのだが、それでも最後まで見入ってしまったのは、ジャンヌモローの美しさやクールな情熱であったり、夜の街を徘徊する彼女を追いかける微妙に揺れるカメラワークであったり、当時の映画独特の”間”であったりするのだろうが、マイルスの冷たく陰湿な演奏によるところが何よりも大きいのだと、僕なぞは思ってしまう。ラッシュ・フィルムを観ながら即興で作ったのだとマイルスは自叙伝で語っているが、彼の感性にはただただ感心してしまうのである。


マイルスが死刑台のエレベーターを吹き込んだのは1957年。前年にCブラウンが夭折し、59年には歴史を変えた名盤?カインド・オブ・ブルーが発表されるので、時代は変革期を迎えつつあったともいえるのだろうが、僕にとって50年代後半というのはハードバップ全盛期=ジャズが最も熱く輝いた、音楽ファンとして一番大切な時代である。


 できることなら、もう一度10代に戻って若さを持って、この映画を観てみたいなぁ。